犬が眠った日

研究分野は社会学・インターネット上の表現活動。その関係の記事多し

ピアプロとクリエイティブ・コモンズの比較

クリプトン・フューチャー・メディア様に感謝

2008年1月29日、ピアプロ開発者ブログ上にて、ピアプロの職人達がどのライセンス形体を選んでいるかのデータが公開されました。
ピアプロ上では、職人達が自身のイラストや音楽を公開するさい、その作品をどのように利用させるかのライセンスを選択することになっています。

(画像のイラストは実際にはアップロードしていません)

組み合わせは以下の四つです。なお、「非営利」はデフォルトで設定されているもので、職人が変えることはできません。

  1. 非営利
  2. 非営利、氏名表示
  3. 非営利、改変禁止
  4. 非営利、氏名表示、改変禁止

私はこのライセンスがどのような分布を示しているかを知ることは、人々の著作権意識を考える上で重要なデータになると考えていました。そこで、クリプトン・フューチャー・メディア様にこのデータを提供してもらえるようメールを送りました。後日、クリプトン・フューチャー・メディア様から返信があり、ブログ上での公開となりました。
クリプトン・フューチャー・メディア様、本当にありがとうございます。この重要なデータ、活用させていただきます。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとの比較

より詳しい分析は、後日またやろうと思います。今回は自分が一番やりたかっとこと、「クリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンス(CCL)」との「氏名(クレジット)表示」比較を行いたいと思います。

CCLは、ローレンス・レッシグが中心となって作った団体「クリエイティブ・コモンズ(CC)」が提供するライセンスです。CCLはピアプロと同じく、「非営利」や「氏名表示」などの選択肢から自分の作品に付けたいライセンスを組み合わせる方式を取っています。証拠はありませんが、おそらくピアプロのライセンスはCCLを参考にしたものだと思います。

CCLはver.1からver.2に移行するときに、いくつか変更を行いました。その変更の1つが、氏名表示を意味する「表示(クレジット表示)」のデフォルト化です。つまり、CCLが付いた著作物を利用する際は、必ず著作者の名前を書くよう変更になったのです。その理由を、CCは次のように述べています。

Our web stats indicate that 97-98% of you choose Attribution, so we decided to drop Attribution as a choice from our license menu ― it’s now standard.

Announcing (and explaining) our new 2.0 licenses - Creative Commons

私達のウェブ統計では、あなた達の97〜98%が「Attribution(クレジット表示)」を選んでいたので、ライセンスメニューから「Attribution(クレジット表示)」の選択肢を外すことに決めました。現在それは、デフォルトとなっています。


この報告から分かるようにクリエイティブ・コモンズでは、「氏名表示」がかなり高い度合いとなっています。
また、オープンソースで有名なエリック・レイモンドは「ノウアスフィアの開墾」のなかで、ハッカーの間で「こっそりだれかの名前をプロジェクトからはずすことは、文化的な文脈では究極の犯罪だ。それは犠牲者の贈り物を盗み取って、泥棒のものとして提示するということだからだ」と述べています。ソフトウェア共有で有名なハッカーにおいても、名前の有無は重要なものとなっているのです。

では、ピアプロはどうだったのでしょうか。ブログでは、以下のように報告されています

■対象:2007/12/3〜2008/1/28までに投稿された全作品(合計12,991件)

■調査結果:

非営利* 氏名表示 改変禁止
× × 72.0%
× 17.8%
× 4.7%
5.5%

ピアプロでは非営利が選択必須となります。

ライセンス条件の割合調査 - ピアプロブログ


氏名表示を求める割合は合計で23.3%。求めない割合は合計で76.7%。CCの報告とは逆の結果となっています。
この違いはどこからくるのでしょうか?

違いの分析

この答えを出すには、まだ調査が足りません。ピアプロにイラストを投稿している職人の方々にインタビューもしたいです。今回は全体の分布ですが、音楽とイラストではこの分布に違いがあるのかという種類の比較も必要です。やりたこと(やるべきこと)は、山ほどあります。
ここでは不十分ではありますが、現在自分が考えている1つの仮説を述べます。
私は、このような違いが出るのは、CCLを付けた人々やハッカーは「マズローの欲求段階説」における「自我(自尊)の欲求」を基礎にして共有を行っているのに対して、ピアプロの職人達は(それと、自分の研究分野であるAA描き)は、「親和(所属愛)の欲求」を基礎にして共有を行っているからだと思います。
先のエリック・レイモンドは、同論文の中でソフトウェア共有における「評判」の重要性を説いています。ハッカー達は「贈与文化」の中で「評判」を得るために、共有を行っているとしています。ここでの「評判」を求める欲求は、「自我の欲求」と同一のものであると言ってよいと思います。
一方ピアプロの職人やAA描きはこれとは違い、他者と作品を媒介にして繋がること(作品を利用されること)を目的としているのではないのでしょうか。そのため、「自我の欲求」を満たす名前の表記にあまり関心が無く、このような結果になったのではないかと考えています。

もっとも、ただ単純に日本人は控えめな人が多くて、外国人は自己主張が強い人が多いと考えた方が分かりやすいかもしれません。また職人のオリジナルではなく、初音ミクやカイトなどの「2次創作物」につけるライセンスであるという部分も重要な気がします。

先ほども述べたように、この問題の研究はまだ途上です。でも、だからこそワクワクしてもいます。クリプトン様のご好意に応えられるよう、今後もこの問題を進めていきたいです。

クリプトン・フューチャー・メディア様、本当にありがとうございました。

追記

すみません。トラックバックが2重になってしまったかもしれません。

31日

どうやら送信されていないようなので、もう一度送っています。

2月1日

どうやら送信されていないようなので、コメント欄で書いたことを報告しました。

2月3日

以下のサイトなどで取り上げてもらいました。上記二つは意見(うち1つは、実際の職人の方から)も貰えましたので、私と同じくこの問題が気になる方はご覧ください。
ご意見、ありがとうございます。

2月3日

ピアプロ開発者ブログへのリンクを、該当エントリーへ変更

3月28日

一番初めのリンクに、「「出口がない」「権利者は誰」――初音ミク2次創作の課題 - ITmedia ニュース」を追加。CCLとクリプトンの規約に関して書かれているので。

応答

# 2008年01月30日 glcs VOCALOID, クリプトン, PIAPRO, 著作権 ラジオボタンの初期値が逆だったら結果も逆になったんじゃないかなという仮説。

ありえますね。これは、積極的にそのライセンスを選んだのか、それとも消極的にライセンスを選んだかの問題だと思います。自身が作った作品の利用に関して、さほど興味が無い人がどれほどいるのか気になるところです。無関心層とでもいいましょうか。