犬が眠った日

研究分野は社会学・インターネット上の表現活動。その関係の記事多し

第1研究計画書(配布用)

この文章は、20082009年4月16日に研究計画書(第1)として発表したものをブログ用に少し改変したものです。
20082009年5月7日には第2研究計画書を発表しており、それは明日頃に載せたいと思います。
意見がありましたら、よろしくお願いします。

1.「アスキーアートを事例とした著作物の共有意識」に関する研究計画

1.計画概要

 卒業論文では、「アスキーアート(絵文字)」と「フリーソフトウェアオープンソースソフトウェア」を事例(「アスキーアート(絵文字)」を中心事例)としながら「フリーな(自由な)文化」(Lessig 2004=2004:10)において人々が持つ著作権意識について考察した。
 修士論文では、卒業論文では未完成であったアスキーアートの歴史の精査(パソコン通信時代とインターネットへの移行期)と、著作権意識を考察するにあたって採用した理論枠踏みを、卒業論文より厚いものにする。

2.研究方法

a.インタビュー(質的調査)
【インタビュー相手】

【質問する内容】
それぞれの時期のAAの作成状況・作品に対する著作権意識。
b.文献調査

  • 「インターネットによる個人の情報発信」のより広範な文献
  • 「インターネット上の協同作業」のより広範な文献
    • ヨハイ・ベンクラー(Yohai Benkler),2007,The Wealth of Networks,Yale University Press.
    • Lessig,Lawrence,2001,The Future of Ideas: The Fate of the Commons in a Connected World , Random House Inc.(=2002,山形浩生訳『コモンズ ネット上の所有権強化は技術革新を殺す』翔泳社.)
  • 「贈与論」関係
    • マルセル・モース(Marcel Mauss),吉田禎吾・江川純一訳, 2009,『贈与論』筑摩書房.
  • 「所有権(財産権)」関係
  • 「コミュニティ論」関係

2.「共有文化と企業の関係」に関する研究計画

1.計画概要

 これまでどちらかと言えば領域を異にし、棲み分けていた2つのカテゴリー、すなわち、著作物の共有を志向していた(「フリーな(自由な)文化」にいた)人々やコミュニティと、著作物のコントロールを志向していた(「許認可文化」の中にいた)企業が、相互作用の中で協同することで生まれている著作物の新たな創造の構造について研究していく。
 事例として、そのような関係が生まれる場としての「ニコニコ動画」(動画共有サイト)と、創造のされている対象としての「Vocaloid」(人工歌声作成ソフト)を取り上げる。

2.研究方法

a.インタビュー(質的調査)

  • X氏:「2ちゃんねる」において初期からアスキーアートを描いている人物。「Vocaloid」を使った楽曲も精力的作っている。
  • KEI氏:「Vocaloid 2」のキャラクターイラストの著作者。
  • クリプトン・フューチャーメディア:「Vocaloid」を販売している企業
  • Vocaloid」に関するニュースサイトの管理人
  • Vocaloidキャラクター」の二次的著作物を描き、クリプトに公認をもらった人々

b.文献調査
 この研究計画は、三つの側面から成り立っている。一つ目に個人が作品をマスに届けることが容易になったという側面、二つ目にそのような状況の個々人が協同して作品を作るようになったという側面、三つ目にその個人が企業と関係しだしたという側面である。
 「アスキーアートを事例とした著作物の共有意識」に関する研究計画では、上記の側面のうち初めの二つを主に対象としているのに対して、この研究計画では最後の一つを含めたものになっている。そのため、この研究の分析には左記の研究計画で書いた文献調査に加えて以下の文献が必要になる。

  • フランクフルト学派」関係(参考:鈴木 2004)
  • 「コンテンツ産業」関係
    • 長谷川文雄・福冨忠和編,2007『コンテンツ学』,世界思想社.
    • 新宅純二郎・柳川範之,2008『フリーコピーの経済学――デジタル化とコンテンツビジネスの未来』,日本経済新聞出版社.
  • インターネット以前の、コンテンツ産業と個人の関わりに関する文献

3.現在、行っている作業

1.レポート作成

「『限界芸術』論の始まりと展開」
 これは、鶴見俊輔が60年代に発案した「芸術」の3分類の一つである「限界芸術」(鶴見1969,1991,1996,1999)に関するレポートである。レポートで明らかにするのは次の二つである。一つ目に、鶴見の「限界芸術」論の特徴と、他の人々が以後どのように論じたかの先行研究調査(池上1996)、(水越2002)、(長谷川2007)二つ目に、この分類は今回の私の研究において何か有益なものをもたらすのか、である。
「ネットによる『プロ』と『アマ』の関係の変容」
 これは、「プロ」・「アマ」という役割に関するレポートである。レポートで明らかにするのは、次の二つである。一つ目に、インターネットは「アマ」にどのような影響を与えたのか、二つ目に、その対の存在である「プロフェッショナル」との違いにどのような変化をもたらしたか、である。方法として、「プロ」と「アマ」を構成する要素を3つとりだし、それぞれの要素がインターネットによってどのように変化したかを論じるやり方を取った(鈴木2004)。
「『二次創作』での作品利用の構造」
 これは、既存の著作物を利用して作られる「二次創作」の構造に関するレポートである。レポートで明らかにするのは、「二次創作」が既存著作物の何を利用していることなのか、である。事例として、「ニコニコ動画」で「二次創作」が盛んなシリーズの一つを採用する。文献調査としては、パロディの理論をまず調べていく。

  • リンダ ハッチオン(Linda Hutcheon),1993,『パロディの理論』,未来社.

「ネットでの創作活動に伴う金儲けへの反発の実態と原因」
 これは、創作活動のなかで金銭を得ることへの反発現象(「嫌儲」)に関するレポートである。レポートで明らかにするのは、この現象がおこる理由である。方法として人々が持つ、金銭による動機付けへの評価と財産権への態度の面から分析していく。現時点の作業としては、ハンナ・アレントの文献調査(参考:仲正2004)を考えている。

  • ハンナ アレント(Hannah Arendt),1994,『人間の条件』筑摩書房.

「同人文化における『頒布』の意味解釈」
 これは、同人文化において使われている「頒布」という言葉に関する分析である。「頒布」は、「販売」の代わりとして使われている言葉である。つまり、「販売」は一種のタブー語になっている。レポートで明らかにするのは、「頒布」とその関連する言葉(販売、購入、売る、買う)の使われ方の実態と、このようになっている理由である。これは、「ネットでの創作活動に伴う金儲けへの反発の実態と原因」の具体例でもある。

2.その他の作業
  • インタビュー質問案の作成
  • コンテンツ産業における経済学・法律学の文献調査

4.研究の全体図

参考文献

課題

 現在やっていることを列挙しているだけでおり、中心となる内容が書かれていない。
 5月8日の第2研究計画書では、ここで述べた鶴見氏の「限界芸術」を理論枠組みとしてすることを述べた。

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