犬が眠った日

研究分野は社会学・インターネット上の表現活動。その関係の記事多し

「初音ミク」から考えた、「Fan art」と「二次創作」は違ったということ。

初音ミク」とは

ニコニコ動画などで、音声合成エンジン「VOCALOID 2」を使って作った映像、音楽が人気となっている。「初音ミク」とは、ソフトにおいてその声を出しているという設定のバーチャル・シンガーのことである。

ニコニコ動画での音楽といえば、「おっくせんまん!」や「組曲『ニコニコ動画』」のような著作権を侵害して作られた音楽という印象がある。
しかし、「初音ミク」の場合は先の「恋スルVOC@LOID」を含めて、「あなたの歌姫」「みくみくにしてあげる♪」というオリジナルの曲が作られ、それぞれ人気をはくしている。
もちろん、これらより多くの既存の歌を歌わせた初音ミク動画(つまり、著作権を侵害した動画)がニコニコ動画には挙げられている。

2次創作の著作権侵害は、目的ではなく結果

今回、思ったのは、「既存の作品をもとにした作品(「二次創作」)の多くが著作権を侵害しているのは、目的からではなく、あくまで結果としてある。彼らはファンとして、自分の思いを表現([Fan art」)することを目的としている」ということである。初音ミクのイメージソングが作られるのは、彼らのファン心理からである。
今回は、VOCALOID2という「歌を作るソフトのキャラクター」という特殊な条件であったため、初音ミクのイメージソングを作るという著作権を侵害しない方法で彼らの思いを表現することができた。一方、同じ初音ミクへの思いを表していても、おそらくイラストの多くは著作権を侵害している*2
これと同じようなものとしては、同じくニコニコ動画で流行ったオリジナルの歌である「エアーマンが倒せない」が挙げられる。これも、ファンとしてロックマンへの思いを表したものだろう。

考えていた2次創作作家が持つ思想

「2次創作をする人々が、別に著作権を侵害することを目的とはしていない」というのは、ある人達にとっては当たり前かもしれない。私もなんとなく、そう思っていた。
だが、同時に一つの思いも存在していた。それは、2次創作を行っている人々は反著作権の戦士だという思いである。妄想を加えて書けば、私は次のような考えを2次創作作家は持っていると思っていた。

作品を独占する企業や作家は敵である。彼らは作品を独占し、自由な表現活動を禁止している。著作権の目的は文化の発展にあるのであり、彼らの行為は文化の発展を停滞させている。


私達は、独占者の手から文化を解放する必要がある。


彼らが独占するキャラクターを紙に書くその一筆が、抵抗の証である。
彼らが独占する音楽を混ぜるその一音が、抵抗の証である。


私達は諦めない。独占者たちから文化を取り戻す日まで。


大げさに書いてはいるけど、こんな感じじゃないかとなんとなく思っていた。思いたかったというのも半分ある気がする。実際アメリカには、「d e t r i t u s . n e t」という反著作権の団体がある。ここでは「趣旨に賛同したアーティストたちが、パロディとか、コラージュ、サンプリングによる作品を発表して」*3いるという。日本の2次創作作家も、これと似たような考えを持っていると、いくばくか思っていたわけである。

オリジナル音楽の動画でも、初音ミクの画像を使う理由

それが、今回の初音ミクのオリジナルソングを見て、あくまでもファン心理から来たもの(著作権侵害は結果であり、目的ではない)なのだなと強く思うようになった。
また、こう思うようになった別の理由もある。それは、上記のオリジナルソング動画においても、おそらくは無断転載したのであろう初音ミクの画像を使っていることである。この動画は、もし削除依頼されれば、音楽は著作権を侵害していなくても画像が侵害しているため、消される可能性がある。これはリスクの高い行為である。
それなのに画像を使う理由としては、先ほど述べた「独占者への抵抗」という可能性もある。しかし、それならば「動画」というその画像が広がる可能性が低い方法を取るのも変である。音楽だって、既存の物を使うはずである。
ここでは、動画をよく見せるために画像を使ったというのが自然な理解だと、私は考える。Fan artはそもそも著作権が話しの外にある現象(とにかく、この気持ちを表すいい作品を作りたいという思いから来ているもの)であとするなら、オリジナルのものと既存のものが混ざっているということもFan artであることを示すと思う。

最後に

初音ミクの事例は、同人界における著作権意識研究の絶好の事例になったように思う。それと、後半の文章がまとまっていないのは、頭の中がまとまっていないからである。
それとは別に、いい作品を見さしてくれて、初音ミクイラストの2次創作作家や作曲(作詞)家の方々に感謝。

*1:上の動画の作者であるふわふわシナモン氏のページ

*2:権利者である[http://kei-garou.net/:title=KEI]氏とクリプトン・フューチャー・メディアの許可は取っていないと思うため。イラストの著作財産権がどちらに行っているのかは不明なため、クリプトン・フューチャー・メディアは権利を持っていないかもしれない。

*3:福井建策「[rakuten:book:11484005:title]」集英社新書 2005