犬が眠った日

研究分野は社会学・インターネット上の表現活動。その関係の記事多し

修論覚書―「インターネット上のコラボレーションの三つのレベル」

要旨

 インターネット上のコラボレーションを研究するさいには、そのコラボレーションを以下の三つのレベルで見たほうがよい。

  • 始期:「インターネット上で出会う」
  • 中期:「インターネット上で作業のためのコミュニケーションをする」
  • 終期:「インターネット上で発表する」

「インターネット上の」の曖昧さ

 私の修論のテーマは、「インターネット上におけるコラボレーションのメカニズム」である。この場合の「コラボレーション」とは、「個々人による作業を何かしらの方法によって一つの成果物に結実させる行為」を意味している。具体的には、複数人の人々が作業・役割を分担してアニメーションや音楽を作る行為(私はこれを「合作」と呼んでいる)や、二次的著作物(「共同著作物」のような著作者間に共通の意思や相互のコミュニケーションがない状態で、既存の著作物に新たな創作性を加えたもの)という形で、複数人の作業が一つの成果物に結実すること(私はこれを「二次的」と呼んでいる)を指す。
 ところで、インターネットが携帯Eメールの形でほぼ普及しきった現在、ほとんどの「コラボレーション」は、インターネット上で行われている部分があるだろう。そうすると、単に「インターネット上の」と言っただけでは、何か雲を使うような曖昧さが残る。
 この「イターネット上の」という言葉の曖昧さを解決するために、「インターネット上におけるコラボレーション」を三つのレベルで見るべきだ。それは、(1)「インターネット上で出会う」、(2)「インターネット上で作業のためのコミュニケーションをする」、(3)「インターネット上で発表する」の三つである。それぞれは、時系列の始期・中期・終期に当てはまる。

始期―「インターネット上で出会う」

 コラボレーションを行うためには、「合作」の場合は人に、「二次的」の場合は作品に出会う必要がある。その出会いが、インターネット上で行われたということだ。パソコン通信の時代から、ネットの特徴の一つとして、見知らぬ人々を容易に出会わせることが取り上げられている。掲示板・ML・チャット・SNS・などがそれを仲介している。作品も掲示板・サイト・ブログなどを通して出会う。
 コラボレーションを分析するさいに、この出会いがどのように行われているかに注目する必要がある。

中期―「インターネット上で作業のためのコミュニケーションをする」

 コラボレーションと行った場合、この作業のためのコラボレーションが本丸にあたる。狭義では、ここだけが「コラボレーション」と言えるかもしれない。昔ながらのメールだけでなく、出会いの場でもあった掲示板やチャットが、作業のためのコミュニケーションの場にもなる。各種メッセンジャーによる音声通話や映像通話も一般化した。
 CSCW(computer supported cooperative work)は、このレベルに特価した研究分野である。そこでは文字通り、「コンピュータ支援による共同作業」が研究されている。本論文においても、作業の中での権限の違いやリーダーの役割、物事の決定の方法などを調べる必要がある。

終期―「インターネット上で発表する」

 このレベルは、「コラボレーション」とは言いにくいかもしれない。しかし、「二次的」の場合は作品が発表されなければ始期の部分も存在しない。「合作」の場合も、ニコニコ動画で歌い手や作り手がコミュニティを作っているように、インターネット上で作品を発表することで人々との出会いが促される部分がある。
 コラボレーションを分析するさいにも、ネットで作品を発表する動機を探るだけでなく、始期に繋がるサイクルとして見る必要があるかもしれない。