犬が眠った日

研究分野は社会学・インターネット上の表現活動。その関係の記事多し

「権利者に許可をもらってない二次創作物に対して、その二次創作物の作者は著作権を主張できるか」を調べた結果

この記事について

この記事では、以前に書いた「犬が眠った日 : のまネコの問題点(「私物化」編)」の一部を、ほぼそのまま載せている。上の記事は、著作権意識に関する卒業論文社会学)を書く中で、調査の途中経過として書いたものである。

今回、「同人探 : LINDA ProjectのLINDA様、『NARUTO』はあなたの著作物ではありません。」や「そろそろ同人誌二次創作物の著作権について一言いっておくか*ホームページを作る人のネタ帳」を見ていく中でこの記事が役に立つと思い、再掲することにした。

この記事の欠点として、取り上げている文献が古い版であることに注意。申し訳ない。

概要

「原著作権者に許諾を取っていない二次的著作物に対して、その二次的著作物の著作者は著作権を主張できるか」*1という問題がある。この記事では、「著作権法の研究者たちが、この問題に対してどのような主張をしているのか」について調べた。その結果、「著作権を主張できる」が通説であると分かった。

二次的著作物の著作権

著作権法27・28条により、著作権者には「二次的著作物」(ある著作物に新たな創作性を加えて作り出された著作物。もとにされた著作物は「原著作物」と言う)に関する権利が認められる。これによって他の誰かが二次的著作物を作ったり、その二次的著作物を利用(複製など)したりするには、原著作物の著作権者に許諾を取らなければならない。

二次的著作物の創作者も、その二次的著作物に関しては著作権を持つことができる。ここで問題になるのが、原著作者に無許諾で作られた二次的著作物(著作権法27条に違反して作られた著作物)の著作権に関してである。この場合の二次的著作物の著作者は、その二次的著作物の著作権を持つことができるのか。

大学に置いてあった著作権関連の本(当時)を一通り調べ、ウェブ上の情報も調べた結果、以下のことが分かった。

なお、二次的著作物を創作する場合には、原著作物の著作者の許諾が必要である。第27条で翻訳権・翻案権等が規定されている。ただし、原著作物の権利者に無許諾で翻案等をした二次的著作物であっても、翻案権等の侵害の問題はあるが、その二次的著作物は保護の対象となる。


作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』ぎょうせい 2004年 p115

例:Aが執筆した小説をBが翻訳し、Cが出版する場合。

Bは翻訳するにあたり、Aから許諾を得ないといけない(著27条)。
Cは出版するにあたり、Aから許諾を得ないといけないし(著28条)、Bからも許諾をえないといけない(著21条)。
BがAの小説を無断で翻訳したとしても(Aの著作権を侵害しているとしても)、Bが翻訳によって著作権を取得することにかわりはなく、CはBから許諾を得る必要がある(通説)。


駒田泰土(上智大学法学部国際関係法学科助教授、研究テーマ:知的財産権の国際的側面)「 二次的著作物及びその権利関係

以上のように、原著作者に無許諾で作られた二次的著作物(著作権法27条に違反して作られた著作物)でも著作権を持てるが、通説のようである。

ただし、この解釈とは逆の主張もある。半田正夫氏の以下の主張である。

結論において賛成であるが(引用者注:東京地判昭和47年11月20日マッド・アマノ氏のパロディーモンタージュ写真事件*2の判決文に対して)、さらにこの趣旨をもう一歩進めて、原著作物者の許諾を得ないで作成された二次的著作物は―いかにそこに独創性が認められようとも―著作物として保護しないという点まで徹底できないものであろうかとの疑問を持つ。なぜなら、著作権侵害の効果として差止請求の認められるようになった今日、原著作権者によるこの請求権の行使によって二次的著作物の利用は全くなしえなくなるのであるから、これを著作物として保護するとしても実効性はないと考えるからである。


半田正夫『著作権法概説(第11版)』法学書院 2003年 p282

しかし半田氏が「できないものであろうかと疑問を持つ」のは、原著作者に無許諾で作られた二次的著作物に著作権を認めるのが一般的であるからだと考えられる。そもそも著作物として保護する必要がない(著作権を認めない)なら、この主張をする必要もないからだ。

以上のことから、「原著作権者に許諾を取っていない二次的著作物に対して、その二次的著作物の著作者は著作権を主張できるか」に対しては、「主張できる」が通説だと私は判断する。

orihime-akami氏が述べる(「日本では、違法な二次創作であっても二次創作者の著作権が発生する。正確には、それを抑制するような法は存在しない。#アメリカはたしか違うんだっけ?」)ように、アメリカではこれが異なる。条文に権利を認めないことが書かれている。詳細は、金田昭彦氏による「KLSアメリカ著作権制度の解説>二次的著作物に対する保護」を参照のこと。

その法解釈にもっと根拠付けを

ここからは、この記事独自の文書である。
今回のブログは、「同人探」管理人氏の法解釈とYamada氏(「ホームページを作る人のネタ帳」管理人)の法解釈を否定する形になった。一見、Yamada氏の法解釈は通説と同じように見える。しかし二次的著作物の著作者に著作権が認めらる条件を「裁判によってまだアウトとなって居ない限り」とYamada氏は限定しているので、通説とは異なる可能性がある(ここは、通説をもっと調べる必要がある)。

しかし私は、「同人探」管理人氏の「原作者の許可を取らずに違法にパクって登場人物レイプして荒稼ぎするのは、日本製品パクりまくりの韓国人や海賊版で儲けている中国人となんら変わりはなく、そんな贋作、偽物に著作権なんてあるわけないじゃないですか」という解釈自体を「法的に間違っている」と思わない。一方、Yamada氏の「これは我々の作成した作品です!と堂々としていて、かつ、裁判によってまだアウトとなって居ない限り、今回の二次的著作物であるエロ漫画NARUTO著作権は現段階でLINDA Projectにあります」という解釈自体も「法的に間違っている」と思わない。

そもそも法学(法解釈学)では、物理学や化学で求められるような「一つの真実・答え」というものはない。その時代の人々に受け入れられた法解釈が存在するだけである。最高裁判所判例であっても、絶対的な答えではない。日本でも先に出された判例(特に最高裁判所判例)に拘束されるのは確かだが、最高裁判所自体がその判例を覆せる可能性を残している(裁判所法10条3号)。その事件以外で上級裁判所が下級裁判所を拘束することもない(裁判所法4条)。学者間の通説も時代によって変わっていく。

そうすると重要なのは、その法解釈をどれほどしっかりと根拠付けているかである。「文理解釈」・「論理解釈」などの解釈技術はもちろん、倫理や正義、当事者同士の利益の保護の点からその法解釈にどれだけの力を与えられるかが重要になってくる。その点で言うと、両者の法解釈にはまだまだ根拠付けができそうに私は思う。解釈を発展させるためにも、根拠付けをもっとおこなっていく必要がある(それでも私にとって1番言いやすい解釈は、「違法と認定された二次的著作物でも、その著作者は権利を主張できる」なんだけれども。アメリ著作権法のように「そのような場合は保護を与えない」と条文に書かれていないので)。

追記

*1:法律用語をあまり使わない言い方だと、「権利者に許可をもらってない二次創作物に対して、その二次創作物の作者は著作権を主張できるか」になる

*2:パロディ事件 - Wikipedia